パートの結びつき

構造改革という言葉は小泉総理をはじめ、多くの政治家が常套句のように使っているが、構造改革という言葉だけがもっぱら先行して、肝心の中身については、その意味するところが多くの国民に的確に理解されているようには思えない。 構造改革の意味について、十分な情報が伝わっていない。
国会の論議を詳細にフォローすれば、政治家の意図するところは詳しく分かるはずだが、通常のメディアはその一部しか伝えないので、国民は十分な理解ができない。 テレビは、構造改革という四文字熟語のキャッチフレーズだけを繰り返し伝えているが、その中身を解説しない。
新聞報道は、道路公固など特殊法人の改廃問題と不良債権の処理などの問題に偏り、構造改革の全体像を十分に伝えていない。 従って国民は、構造改革の全体像や意味について的確な理解がし難い状況にある。
小泉政権の構造改革は欧米でも誤解が多い。 需要不足で低迷している経済に対して構造改革を推進することは、デフレをいっそう助長する間違った経済政策だ、という批判がある。
ポール・クル−グマンプリンストン大学教授をはじめ、こうした批判が多いが、これは小泉政権の構造改革の本質を理解していない誤解に基づく批判の典型的な例である。 こうした批判が多いのは、小泉政権の構造改革の実像や意味について十分な情報が海外に伝えられていないことがその主な原因であり、的確な情報発信の不足については政権の広報や日本のメディアや学界に大きな責任がある。
欧米諸国では、構造改革という言葉は供給サイドの改革という意味に受け取られることが多い。 それは一九八0年代の供給サイド改革の経験が、欧米諸国の構造改革の共通体験として根いまこそ需要創出型の構造改革を強く意識に残っているからだ。
例えば、八0年代のアメリカは、生産性が低迷し、主要製造業は新興工業国に追い上げられて次々と競争力を失っていった。 その背景には過去の圧倒的な地位に安住して賃上げを安易に価格に転嫁し、既得権に固執して硬直化した産業の体質があった。

構造改革(印可己己己包括同05)はこうした体質を改革し、供給側の競争力を復活させるサプライサイドの改革として推進されたのである。 その主眼は規制撤廃によって競争を浸透させ、労使関係を改革して生産性向上のために労使が協力する基盤をつくることにあった。
カーター政権は航空、運輸、通信産業などの規制撤廃を手がけ、レーガン政権は金融改革など全般的な供給サイドの改革を推進するとともに、労働組合の体質改革にも大きく踏み込んだ。 こうした一連の改革によってアメリカの産業競争力は大きく復活したのである。
同様な改革はサッチャ−政権下のイギリスでも強力に推進された。 サッチャ−首相は、固有産業を次々と民営化し、小さな政府の実現を目指すとともに、競争政策を推進し、労働組合の既得権を縮小し、生産性の高い外国企業の導入に努めるなど、供給側の競争力強化に力を注いだ。
欧州は七0年代まで失業率が平均二%程度という完全雇用状態を享受していたが、八0年代に入るやそれが一O%にも上るようになり、経済体質の硬直化が目立つようになった。 こうした状況の下で、供給サイドの改革による経済活性化が、構造改革として共通の問題意識になったのである。
構造改革は日本では、もつばら痛みを伴う改革として意識される傾向がある。 これにはメディアの報道や、政府首脳や政策当局者の情報発信のあり方が大きく影響しているように思われる。
確かに、構造改革の中のいくつかの改革は「痛み」を伴うし、それを避けていては、改革は実現しない。 実際には、小泉政権は痛みを伴う改革と並行して、むしろ国民に力をつける経済活性化戦略、すなわち「明るい構造改革」を実施している。
これは「需要創出型の構造改革」であり、さらに具体的には「雇用創出型の構造改革」である。 この構造改革については、メディアの報道が極めて不足しているだけでなく、政府の説明も不足もしくは手薄であって、多くの国民はそうした明るい構造改革を政府が進めていることをほとんど知らされていない。
本書のねらいは、この「雇用創出型構造改革」の中身と意味を説明することにある。 メディアは、構造改革というと、もっぱら痛みを伴う特殊法人などの改革と不良債権問題を報道する傾向がある。

特殊法人などの改革は、その象徴的な例として道路公団の問題が大きく取り上げられた。 住宅金融公庫や郵政問題なども一連の改革である。
高速道路建設に象徴されるこれら準公的セクターの問題は、これまでの方式を続けていけば累積債務を背負う将来の国民の負担は莫大なものになるので、できるだけ早く思い切った手術を行って、将来の国民の負担を軽減する必要があるというものである。 手術には痛みが伴う。
高速道路建設を縮小すれば、短期的には建設をあてにしてきた各地の建設業や関連産業の雇用にはマイナスの影響が出る。 不良債権問題も同様である。
不良債権の処理は、金融システムが正常に機能し、将来の可能性のある事業に円滑に資金が供給されるような経済を復活するために最優先で実施しなくてはならない課題である。 そのためには処理を加速する必要がある。
不良債権の処理を加速するということは、貸し出し先の審査を厳格にしてリスクの高いところには貸さないということだから、借り手の側での事業の縮小や雇用削減が不可避となる。 リスクのあるところにも貸すことにすれば、銀行は十分な引き当てを積まなければならない。
資本が十分になければ公的資金の導入などが不可避になり、経営者は責任を問われるから、そうした事態を回避するには資本の増強や自らのリストラが不可避になる。 いずれにしても雇用へのマイナスは避けられない。

これらの改革は日本経済の将来に向けて健全なバランスを回復するためには不可欠の重要な改革であるが、その過程では、ちょうど手術が痛みを伴うように、事業の縮小や雇用の削減などの痛みを伴う。 改革がもしこれらの痛みを伴うものだけだったら、経済にはどのような影響が出るだろうか。
痛みだけなら人々の悲観がつのって、むしろ改革への拒絶反応が生ずるかもしれない。 事業の縮小が続けば、経済活動は回復する前に萎縮してしまうかもしれない。
痛みだけの改革は現実的でないし、むしろ非生産的になる恐れがある。 小泉政権の構造改革は、従って、痛みを伴う改革と並行して、需要創出型、雇用創出型の明るい構造改革を進めているのである。
これらの改革によって人々と経済に力をつけながら、将来のために不可欠な痛みを伴う改革を実現させようということである。 ただ、ここで難しいのは、前述したように、事業活動を増やし雇用を創出するために、従来のような財政支出による刺激策、ないしはいわゆるケインズ型の景気対策を採択できないことである。
財政・金融の政策手段が限られている中で事業活動を促進し、雇用創出につなげる戦略として「需要創出型構造改革」が案出され、推進されることになった。 以下、需要創出型構造改革の意義と内容について説明しよう。
いまこそ需要創出型の構造改革を構造改革は欧米ではもっぱら供給側の改革、すなわち供給力を高め、競争力を強化する改革として理解されていることを上述したが、小泉政権の構造改革は、供給側を改革することがとりもなおさず需要創出につながる改革を目指している。

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